福岡地方裁判所 昭和41年(む)147号 決定 1966年3月09日
被疑者 持丸秀吉
決 定 <被疑者氏名略>
右の者に対する賍物故買被疑事件について、昭和四一年三月七日福岡地方裁判所裁判官川口春利がなした勾略請求却下の裁判に対し、同日福岡地方検察庁検察官宗我達夫から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
原裁判を取消す。
理由
本件準抗告申立の理由は検察官提出にかかる準抗告申立並びに裁判の執行停止申立書に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
よつて按ずるに、一件記録によると、福岡警察署は昭和四一年一月二日ごろ福岡市内に発生した盗難事件につきその被疑者福島良雄らを捜査中、本件被疑者が同人らからその賍物を故買した容疑事実を探知し、同年三月三日福岡地方裁判所裁判官に対し本件被疑者の逮捕状請求をなし、同日同裁判所裁判官斎藤清六から逮捕状が発布されてその執行をなしたこと、原裁判官はその後検察官からなされた本件勾留請求について、「右逮捕状記載の犯罪地並びに被疑者の住居はともに佐賀県唐津市内にあるから、本件は原則として福岡県警察の権限外の事案であり、警察法六一条一項に規定する例外的場合に当らない。本件逮捕はその請求者に捜査の権限がない違法があり、これを看過して発付された逮捕状に基づく逮捕手続は全て違法である。而して本件勾留請求は右違法な逮捕手続を前提とするものであるから不適法である」と理由を付して本件勾留請求を却下したこと、本件被疑者の住居および犯罪地は原裁判官指摘のとおり佐賀県唐津市であつて、福岡警察署の管轄区域外にあることがいずれも証拠上明らかである。
そこで司法警察員がその管轄区域内に発生した窃盗罪の捜査に関連し、その管轄外にある賍物罪を捜査する権限があるかどうか考察してみる。
刑事訴訟法は、検察官および検察事務官について、捜査のため必要があるときは、管轄区域外で職務を行うことができると規定(第一九五条)しているが、司法警察員については、なんらの規定がなく、それについてはすべてこれを警察法に譲つている。しかして警察法第六一条第一項によれば、都道府県警察は、その管轄区域内における犯罪の鎮圧および捜査、被疑者の逮捕その他公安の維持に関連して必要がある限度においては、この管轄区域外にも権限を及ぼすことができる旨規定されている。右規定により都道府県警察はその管轄区域内の犯罪の捜査、公安維持に関連して必要がある限度において、その管轄区域外にも、権限を及ぼすことができるのであるが、その立法趣旨に照らすと、右規定にいう関連の限度は社会通念上妥当な因果関係の範囲内にあるものと解するほかはない。そして、その所謂妥当性は被疑者の人権擁護とともに捜査能率の観点、あるいは訴訟法上の便宜等をも綜合的に考慮して決定しなければならない問題である。
ひるがえつて、刑事訴訟法は裁判所の管轄の章に第九条第二項で賍物に関する罪とその本犯とは共に犯したものとみなし、客観的関連事件となしている。もとより裁判所の管轄区域と司法警察職員の固有の職務執行区域(警察法六一条一項、六四条、六六条)とはその観念を異にするけれども、こと警察官の職務執行が犯罪捜査に関する限り、必然的に公訴を中心とすることに着目すれば、少くとも右刑事訴訟法第九条一項二号、二項の規定する関連事件は前記警察法六一条一項の所謂「関連の限度」内にあるというべく、したがつて、警察官は管轄区域内における窃盗罪の捜査に関連する賍物罪についてはその管轄区域外でも権限を及ぼすことができると解すべきである。
そうすると、本件賍物故買被疑事件は、福岡警察署の管轄区域外にある事案であるが、同署の管轄区域内にある窃盗本犯と捜査その他公安の維持に関連する事件なので、警察法第六一条一項により同署警察官の捜査権限の及ぶところということができる。
なお、原裁判官は本件は軽微な事案であるので、その本犯が当該警察官の管轄区域にあるとしても、同法条にいう公安維持に関連して必要がある限度に至らないと付言しているが、記録によれば、本件の本犯は大がかりな集団窃盗事件であつて、本件の賍物故買額も多大に及んでいることが認められるから、原裁判官の右判断を採用することができないし、そのほか以上の説示に反する原裁判官の所論は当裁判所の肯定し得ないところである。
しからば、福岡署警察官の本件逮捕状請求並びに裁判官の逮捕状等一連の手続はすべて適法であり、本件勾留請求も亦適法であるといわなければならない。
しかして、一件記録によれば、本件勾留請求はその理由と必要性があるものと認められ、本件準抗告は理由があるので、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条二項により主文のとおり決定する。
(裁判官 厚地政信 広岡保 福井欣也)
勾留却下の裁判に対する準抗告申立並びに右裁判の執行停止の申立書<省略>